欅坂46 二人セゾン 評判記

「想像しなきゃ 夢は見られない」
歌詞、楽曲について、
ある旅先の異国。老夫婦が営む散髪屋。壁には1982年の「カレンダー」。革張りの茶色のソファーの前に積まれた雑誌。その上に置かれたステレオラジカセから、それは不意に流れてきた。少女がつぶやく。二度、「二人セゾン」。メロディーに合わせて口笛を吹く店主。季節の記憶に囲繞される「僕」。かつて「日常を輝かせ」た状景が目の前に描かれて行く。それを「忘れないで」と「君」に「教えられ」る。つまりこの音楽には幻影があり、目眩の揺り籠があり、季節の記憶の具現化がある。こうしたイマジネールから現実を垣間見るといった構図をバナールな現象と云った小説家がいたが、しかしこの楽曲はたしかに、虚構の濃密さを持つ。その独自性には、イノセントやピュアといった”虚”を通り抜けて白痴という堅牢な”実”へ辿り着こうとする、奇妙な逆転を見る。喪失の経験が儚さに映るのに、成熟には達せず未成熟のまま保存されている。
後日、調べると、それがグループアイドルの歌だと知った。しかしこれは、グループアイドルの映す物語としてはあまりにも完結した嘘の世界に見える。甘美な忘却を投げかける。
とはいえ、作詞家・秋元康の詩情の内に垣間見る、アイドルを演じる少女に向けた、夢に対する啓蒙、は今作品も健在なようだ。「想像しなきゃ 夢は見られない」。たとえば、古代の遺跡から発掘された絵画を眺め、そこに描かれた角と翼をもった獣を眺め、それを古代人の想像の産物と考えるか、古代にはそのような生き物が存在したのかと想像するのか。後者が、アイドルを演じる少女に求められるもの、であることはまず間違いない。*1
ライブ・映像作品について、
思いがけない偶発によって個人の情念が打つかりあうような、不安定で脆い秤を想起させる。仮構のなかで揺くアイドルの日常に槍のような光りが差し、鮮明に輝いてみえるのは、そのもうひとつの別の世界にも四季が流れ、そこに少女たちが浸透するからである。とくに、菅井友香と志田愛佳の付着は聴衆をカタルシスに遭遇させるだろう。志田愛佳のみせた「嗤い」とは、その後のグループが意識的にコンセプトとして掲げた「演劇と歌唱のすり替え」の先駆けであった。彼女がニヤリと嗤った、このたったひとつの場面がグループの未来を決定づけたのだ。
総合評価 83点
現代のアイドルシーンを象徴する作品
(評価内訳)
楽曲 16点 歌詞 17点
ボーカル 16点 ライブ・映像 17点
情動感染 17点
引用:見出し *1 欅坂46 二人セゾン
歌唱メンバー:織田奈那、尾関梨香、長沢菜々香、上村莉菜、米谷奈々未、石森虹花、土生瑞穂、今泉佑唯、菅井友香、渡辺梨加、長濱ねる、渡邉理佐、志田愛佳、小林由依、齋藤冬優花、佐藤詩織、小池美波、平手友梨奈、原田葵、鈴本美愉、守屋茜
作詞:秋元康 作曲:SoichiroK 編曲:Nozomu.S Soulife