アイドルへの眼力を養おう 2

「アイドルの可能性を考える 第六十四回」
メンバー
楠木:文芸批評家。映画脚本家。趣味で「アイドルの値打ち」を執筆中。
OLE:フリーライター。自他ともに認めるアイドル通。
島:音楽雑誌の編集者。
横森:写真家・カメラマン。
「櫻坂46のダンスを批評する」
楠木:今回は櫻坂46の『The growing up train -Dance Practice-』を材料にして、アイドルたちの踊りを各自10点満点で評価していきます。最後に平均点を出し、それを最終評価とします。
島:これ結構スタミナがいるんですよね。前回は一時間半くらいですか、繰り返し同じ動画を観て、同じ曲を聴いていましたからね。夜、寝る前にずっと『クリフハンガー』が頭の中で流れていた(笑)。
横森:ひたすら同じ動画を再生していると、目移りするってのが、グループアイドルにとっては如何に大事かってのがわかるね。次はこのアイドルを眺めようと思って見ていても、いつのまにか違うアイドルを見ている、なんてことが往々にしてある。そういうときに評価が生まれるんだね。
島:これは曲が良いから、評価が容易ですね。そのダンスが、音楽と関係を結べているのかを見ればいいだけ。
楠木:この楽曲はテーマが教養ですよね。全体的に、直近の表題曲と比べると、振り付けの落とし込みに手こずっているように見える。たとえば石田千穂とかなら、ナチュラルに踊るかもしれない。
横森:教養がテーマなら、表情を見ればわかりやすい。格好つけるのは筋違い。藤吉夏鈴とか。
島:青春だからこそ、等身大に格好つけるべきでは?
横森:振り付けがあって、自分はアイドルだという意識があって、それで格好つけてるのはだめだよ。なんで格好つけるのがだめかというと、視点が格好良い、格好悪いって水準に落ちちゃうから。青春なら、それこそ格好悪いもんでしょう、それは。もっとジタバタすべきだよ。
島:スカして格好つけてるのが格好悪く見えるなら、それこそ青春ですよ(笑)。
楠木:藤吉夏鈴のこれは、たしかに格好つけているけれど、これは言ってしまえばデタッチメントですよね。音楽を演じる際に内省的になってしまうという意味では、きわめて一人称的です。一方で、たとえば森田ひかるは、つねに微笑をたたえていますね。格好つけていない。なぜそれが可能なのかと考えると、感情伝達の手法的には、たとえば三人称限定視点におけるプロタゴニストというものがありますが、これに近い。アイドルという自分ではないもうひとりの語り手が森田ひかるという自分を主役として語っているわけですね。「私は、悲しかった」と表現するのではなく、「そのときの彼女は、ただ、どうしようもなく悲しかったのだ」というような。一人称では、自分で自分の内面を語ることになりますから「どうしようもなく悲しいの」とは言えないわけですね。とくに日本人は、そうした言葉を日常的には用いません。仮に、そうした言葉を心のなかで作っていても、口には出せない。だから一人称というのは日本人にとってはある種のデタッチメントであるというのが最もリアルな常態になってしまう。説明しすぎないというのが、美徳にすらなっている。この枠から抜け出るには、自分を一段高い場所から眺める必要があります。森田ひかるはそれができている。藤吉夏鈴は内省的ですから、一人称のなかで、どうやって自分を表現するのか、個性を出すのかというのを考えているんだと思います。だから格好つけるしかないんじゃないかな。笑顔をつくろうと思えば、とびきりの笑顔をつくれますよね、このアイドルは。でもこの場ではほとんどそれを選択していない。あるいは、笑顔をカタルシスと捉えているのかもしれない。いずれにしても、それは「青春」の体現的な表現だと言えます。僕は、森田ひかるに10点、藤吉夏鈴に8点を付けます。
横森:説明しすぎないことが、感情の複雑さに繋がっているのなら「青春」ではあるけれど、ただ、この動画のパフォーマンスからはそれがあるのかないのか、いまいち判断できない。藤吉夏鈴は6点。森田ひかるは、口語と文語の横断って意味ではこれ以上に独特なものはないから、まあ10点以外はあり得ない。
島:仮に藤吉夏鈴が内省的であるとして、内省的になってここまで堂々とした風格が出せるなら、それこそ達成ではないですか?僕は10点と評価したいですね。森田ひかるのスケールもわかります。音楽の中でここまで笑顔が自然に描けるのはすごい。こちらも10点をつけます。
横森:10点を出したので、次は1点を探すことになるが、山﨑天かな。どれだけ上手くてもさ、テーマに合ってないよ、これじゃあ。
楠木:このなかだと一ばん演技してるけどね。欅坂っぽいと言うか。
横森:バックボーンに逃げているんだよ、それ。前を向いていないじゃない。
楠木:内省がどうたらもバックボーンだけど(笑)。
島:作風が「成長」なら欅坂を感じさせるのは当たりじゃないのかな。僕は7点。
楠木:技量的にも欅坂というのを身内に沈めているので、その点で鑑賞に堪えると思います。無意識の影響ではなく演劇を支えにしているということですね。僕も7点をつけます。
島:1点は、一目瞭然で浅井恋乃さん。これは前回と同じ評価軸で、そもそも経験が足りていないと思います。才能がどうとか、表現がどうだとか、好みを語る以前の問題ですね。
横森:動きがまだまだ硬いね。ビジュアルは個性があるよ。似たアイドルが周りにいない。3点。
楠木:経験がどうとか言うより、致命的にセンスが悪いと思う。手足の動き一つひとつに、拭えない違和感がある。スマートに見えません。鏡の前に立って、自分の動きを見て、これを正解だとおもっているのだとしたら、やはりセンスの問題になる。ミュージックビデオで見せた表情は素晴らしかったので、その演技としての表情を踊りにどう落とし込むかが、今後の課題になるはずです。現状は、1点。
島:おなじ新人だと佐藤愛桜、山川宇衣がいますね。一転して佐藤愛桜さんはものすごく安定して見えますね。
楠木:経験者じゃなかったかな?
横森:へえ。たしかに新人離れしているね。
島:主人公感というのが見えますね。日向坂の大野愛実のような。
横森:センターに立ってやるっていう意気込みを感じるよね。
島:感情を垂れ流していないですよね。メリハリがあるというか。音楽に反応していくなかで、どうしても捨てきれない自分というのを見つけてしまっているというか。6点を付けます。
横森:感情の省略が上手いんだと思うね。感情を省略できるってことは、感情を飛躍できるってことだから。こういうのは教えて身につくものじゃない。俺は思いきって7点。
楠木:大野愛実の名前が出ましたが、野心という点で、大野愛実とは似て非なるものだと思うんですね。センターになってやろうという野心はたしかに透けて見えます。そこは評価できますが、大野愛実と決定的に差があるのは、主役になろうという意志の働きかけとしてのダンスではなく、自分が主役だという確信における踊りですね。自分が主役だという確信は、主役にしか出てこない。ここに決定的な差がある。その点で、どうしても弱く見えてしまう。それは実際に彼女がセンターに立てば埋まるものなのか、わからないけれど、現状は5点くらいの迫力だと思います。
島:次は山川宇衣さん。
楠木:僕は新人のなかではこのアイドルを買っていて、特に身のこなしが綺麗ですよね。手先、足先だけでなく、膝の曲げ方、腰の使い方、歩幅、すべてがしなやかで、美しい。この華やかさは、文句なしに才能だと思います。
横森:楽曲の季節感を毀さない踊りだよね。
島:癖が強いのに、不思議ですよね。彼女の動作をそのとおり言葉にすると、「音楽に自分を絡みつけている」。
横森:楠木くんが前に山下瞳月を蛇に喩えていたじゃない?変身という意味で。この子もそういう感じがあるね。それでも佐藤愛桜と比較すると、一段下がる。俺は6点かな。
楠木:僕は7点。
島:僕は6点。
横森:山下瞳月はこの動画だとあまり目立ってないね。
島:とはいっても、素人目に見ても、全体的にハイレベルですよ。このグループは日向坂と比べると、点数をつけるのがむずかしいですね(笑)。
楠木:おとなしいよね。でもおとなしいって点も、この人の魅力だよ。
島:減点させない踊りってわけでもないんですよね。個性がしっかりありますよ。
楠木:ものすごく抽象的になってしまうんだけど、音楽に関係のないものを持ち込んでいるんだと思います。そしてその関係のないものがこの人を説明しているんだと思います。普通は、心ここにあらずということで、批判すべきなんでしょうけど、その事態がその人を説明しているので、一転して、長所になるというか。
横森:要するに、センターで活きるタイプだ。この場面だけで言うなら6点かな。
島:動機の不在というのがむしろ武器になっているんじゃないんですか?だとすれば途轍もない。僕は9点。
楠木:推すという言葉の意味を、踊りから見つけられるんですよね。感情の秘匿が、オーディエンスリテンションを高めている。僕は9点を付けます。
横森:そういう視点を持つと、村井優と山下瞳月の差って私情の強さにあると思うんだよね。音楽に私情を持ち込めちゃうのが山下瞳月だとすると、村井優にはそれがない。上手い下手ってところから出ない。
島:定義的な上手さなんでしょうね。世の中に広く認知された事柄よりも、認知されていない個人的な事柄のほうが、芸術ではやっぱり強いんですね。
楠木:『Unhappy birthday構文』の方なら間違いなく10点なんですけどね。音楽のテーマに自分の踊りをダブらせることができるアイドルです。
横森:それって要するに、この楽曲には思い入れが持てていないってことだよ(笑)。
島:そういうテンションの落差ですか、そういう部分で才能が出るんじゃないんですか?
楠木:分析的なことを言うと、音楽のダレ場で、そのとおりダレているように見える。7点かな。
横森:俺は6点。
島:僕は5点で。やれることをやる、やれることをあえてやらない、といった取捨選択ができていない。
楠木:的野美青もセンター経験者ですが、目を引くところがない。と言うか、数えてみると、センター経験者が全体の半分なんですね……。これならセンターに価値を見出す必要もないのかもしれません。
横森:ファンが見たいものをしっかりと見せるアイドルなんだろうね。踊りを見ただけでもわかる。鈍重だけれど、キッパリとしている。
島:それなら、この場でも勝負してほしいですけどね。
楠木:新しさとか、新しさを否定する新しさとか。新しいとか古いとかどうでもいい、みたいな、そういう志向を踊りに望めないという点が、アイドルの正面に立とうという気を起こさせないんだよね。
島:虚しく見えないという点が虚しいんですよね(笑)。厳しいことを言えば、なにも表現されていない。
横森:脚力があるし、そこまで悪くないと思うけどな。俺は5点。
楠木:僕は4点。
島:僕も4点で。
横森:虚しさで言うと、松田里奈のほうが虚しい。一定の水準で踊れているのに、まったく目立たない。
島:たしかに、どこにいるのか、目で追っていても急にわからなくなりますね(笑)。
横森:メモを取ろうとして視線を外すと、見失うよね(笑)。
楠木:バイプレイヤーなんて言葉がありますが、本当のバイプレーヤーはそんな言葉で呼ばれるはずもなくて、そういう意味じゃ松田里奈はバイプレーヤーなんですね。ただ、このアイドルはめちゃくちゃ成長したアイドルでもあるので。デビュー当時はまったく踊れませんでしたから。それを考えると、今のこの柔和な表現は、ある種の到達点と云えると思います。踊りからアイドルの物語が見えるということです。僕は6点をつけます。
島:踊りだけを見れば、平均以上に感じます。僕も6点で。
横森:そこしかあり得ないのかもね。俺も6点で。
島:次は田村保乃さん。
横森:存在感があるよ。ニュージャックスイングみたいなレトロ感がある。アイドルでこの手の踊りが見れるだけでもファンは恵まれてる。2分45秒あたりからの手の動きを見てほしい。アイドルでこういう仕草ができるのは、なかなかいないよ。すごく情動がある。俺は9点。
島:でもこの楽曲でこういう「性」の動きは必要ないのでは?
横森:これをエロスと捉えるのは、そうとうにやましいね(笑)。
島:本人が意図せずにエロスを描いているとしたら、それは弱点では?
横森:意図しようがしまいが、なまめかしく見えちゃうんじゃないの。動作一つひとつに解釈の幅をあたえているということだよ。そういうものをアートと呼ぶんだと思うけど。上手いだけのやつは多分ここには入れないんだ。
島:ロマンチックではありますよね。そう考えると5点よりは確実に上になる。6点か7点で迷いますが、松田里奈よりは手数が多くて上だと思うので、7点で。
楠木:このアイドルに足りないのは衝動だと思うんだけどな。エロスでもなんでも良いんだけど、踊りのなかに衝動的な部分が見えないというか。演技するにしたって、そこに唐突に現れるものだってあるからね。そういう驚きをこのアイドルに見たことがない。僕は3点です。なにか本質的なものが欠けている気がする。
島:次は、守屋麗奈さん。
楠木:この人は凄いですね。このグループで誤魔化しなくコケットリーに踊れるんですから。しかもユーモアにも映るわけでしょう?僕はこの人は「桜」の使徒だと思っているので。
横森:マジックリアリズムというのがあるじゃない?そこにあるはずもないものが当たり前のようにそこにあることで、その周りにある、これまで当たり前に見ていたものの見方が変わってしまう。守屋麗奈のダンスには基本的なマジックリアリズムがある。
島:僕にはそこまでのものは見えないですが、ただ、尋常ではなく美しいというのはわかります。小手先でどうにかなることではないものを、持っているということですね。僕は8点をつけます。
楠木:僕も8点で。
横森:俺も8点。
島:次は中嶋優月さん。
横森:中嶋優月にしても向井純葉にしても、印象が……。この特徴のなさは何なんだろう(笑)。
楠木:並べちゃうのはフェアじゃないと思うんだよね。このふたりを比較するなら向井純葉のほうが断然に良いので。櫻坂の選抜というだけはあるよ。でも全体で見ると、山下瞳月とか村井優の影に隠れてしまう。
島:無害というのは、この楽曲にかぎって言えば、マイナスポイントになると思います。青春って危うくなきゃだめですよね。勝手に青春を決めるなと言われそうですが、でもそういう反応こそ青春だと思います。このふたりにはそれがない。でも基本はできている。僕はどちらも4点で。
横森:俺もこのふたりは4点。
楠木:重要なものを見落としている気がするね。これは僕の経験的な感覚なんだけど、アイドルの才能を低く見積もる際に、漠然とした不安が出ることがある。向井純葉にはそれを感じる。そもそも青春というのは、大事なものをつい見落としてしまうということでもあるからね(笑)。言葉にできない何かがある、なんてよく言いますが、これはただ単純に書き手の力量不足である場合が多い。それとは別に、観察者がまったく魅力に気付けていないという事態もあるからね。向井純葉って、なにか引っかかるんだよね。だから僕はこの場を記録的なメモとしても向井純葉に6点をつけておきます。中嶋優月は4点。
横森:その言い方だと中嶋優月こそ高く評価すべきだと思うけど(笑)。
島:大園玲さん。
横森:このアイドルは個性がある。モノトーンな雰囲気が踊りに活きてる。
島:精神的な部分で印象を抱かせますよね。しなやかさでは僕はこの人が一ばんだと思う。動作も笑顔も弾力があります。しかもちゃんと抑制すべき場所で抑制しているように見える。
楠木:物音をたてないだけに、むしろオノマトペでなきゃ表現できないような、そんな雰囲気がありますね。この人の場所だけ空気の流れがちがって臨場感がある。
横森:たぶん、踊りの質が、技法だとか手法だとかを軽く超えて、人間性に繋がってるんだよ。7点。
島:僕は8点で。
楠木:僕は7点を付けます。
島:最後、谷口愛季さん。
楠木:この人はセンターの水準で語って良いと思いますね。たとえば藤吉夏鈴にたいして「説明しすぎないことが美徳になる」というような言葉を使ったけれど、その「言い過ぎない」の反対にあるのは「言い過ぎる」ではなく、「言い過ぎた後にもうひとつ、なにかが差し出されている」です。森田ひかるにはそれがある。踊りをもって欅坂というものを説明することで櫻坂というものが立ち現れる、ような。谷口愛季にも似たような雰囲気があります。
横森:望遠鏡で未来を見るみたいな、そういうコンセプチュアル・アート的な可能性には立っていないよね。
島:森田ひかると比べると、優雅に見えますね。
楠木:この人こそエロスがあると思うんだけど。
横森:エロスかはわからないけど、なにかをひた隠しにしているように見えるね。
楠木:隠しているというよりも、本人にとって当たり前のことが世間ではどうやら違うということにアイドルの立場で知ってしまった、みたいな。まあ、これは踊りには直接関係ないんだけど(笑)。僕は7点を付けます。
横森:7点。
島:僕も7点を付けます。
よって、最終評価は以下のようになった。
10点:森田ひかる
8点:藤吉夏鈴
8点:守屋麗奈
8点:山下瞳月
7.3点:大園玲
7点:谷口愛季
6.3点:田村保乃
6.3点:山川宇衣
6点:松田里奈
6点:村井優
6点:佐藤愛桜
5点:山﨑天
4.6点:向井純葉
4.3点:的野美青
4点:中嶋優月
1.6点:浅井恋乃未
2026/03/17 楠木かなえ

