アイドルへの眼力を養おう

座談会, 日向坂46(けやき坂46)

「アイドルの可能性を考える 第六十三回」

メンバー
楠木:文芸批評家。映画脚本家。趣味で「アイドルの値打ち」を執筆中。
OLE:フリーライター。自他ともに認めるアイドル通。
島:音楽雑誌の編集者。
横森:写真家・カメラマン。

前回の場から引き続き。

「『クリフハンガー』選抜メンバー各自のダンスに点数評価を行う」

楠木:「眼力」だとか「選考委員」といったワードが出ましたが、じゃあ自分たちはどうなんだ、と言うつもりもないんだけど、しかしアイドルにしても何にしても眼力は鍛えておいて困ることはないからね。比べるというのは、ジャンルを問わず、言葉を鍛える結果につながりますから。ポーズも大事ですが、ただ呆けっとアイドルを眺めていたって仕様がない。アイドルへの眼力を鍛えるとなると、やっぱりダンスになるんだと思います。そこで今日は『クリフハンガー』の動画を見て、歌唱メンバーのそれぞれに、この場のそれぞれが、点数をつけてみる。資料は、一つに絞ります。読者が容易にアクセスできるという条件もふまえて、ユーチューブ上に公開されている「日向坂46『ひなリハ』クリフハンガー」とします。各自10点満点で評価して、平均点を最終評価とします。
横森:ダンスプラクティスをアップするって言うのは、ファンに成長過程を見せるって狙いだけじゃなく、パフォーマンスにそれなりの自信があってのことだと思うんだよね。こういう動画を見たファンがメンバーの実力を比較するのは自然な流れで、そうした視線に堪えられるっていう自信がある。そういえば、乃木坂にはこの手の動画がないよね。その差異を考えるのも、おもしろいだろうね。
島:正直に言って、先入観が消せない部分もあります。これを観ると小坂菜緒だけ別格に見えます。それは僕が基本的には楠木さんの言葉でアイドルを学んできてしまったからだと思うんですね(笑)。小坂菜緒のダンスはひときわ鷹揚ですよね。ゆったりとしていて、時間のながれが彼女だけ違う。これはやはり言語的な特徴なんだと思います。言語を詩的に語らうという姿勢がこういった踊りを可能にするんでしょう。10点のほかにあり得ないと思います。
横森:上手い下手とか、もうそういう次元に立ってないよね。今のアイドルは、この人がバイブルになるんでしょう。俺も10点だね。バランスが良くて、身体の動き、表情、すべて美しい。ダンスが美徳になっている。
楠木:小坂菜緒に関しては僕はもうほかのところで語っているので付け足す点はないんだけれど、まあとにかくこのアイドルは足取りが豊かですね。もちろん僕も10点です。
島:美徳という視点に引っ張られると、藤嶌果歩さんですか。彼女も美徳を感じますね。音楽というかアイドルそのものへの強いこだわりを持っているのが踊りからわかる。堂々としていて風格がある。
横森:ちょっとクセが強いね。
島:そこをどうとるかでしょうね。でもおそらくこれは、鏡の前で丹念に検証を重ねて、残すべきところを考えに考え抜いて出したスタイルなんじゃないかな。
横森:俺は6点かな。表情は文句なし。
島:僕は8点
楠木:もっと身勝手に動いて欲しいですね。でも誇張がありますよ、この人は。僕は7点かな。
横森:表情で言えば、松田好花はあまり良くないね。小技は効いているけど、個性がない。4点かな。
島:評価の高いメンバーなんですよね。これを見るかぎりでは、僕にはわからないなあ。器用には見えます。でも出来ることをここではやっていないように見える。僕は5点で。
楠木:そこはむずかしいところですが、まあ作品ごとに評価されるべきですよ。5点以下ってことはさすがにないと思うけど。小手先に逃げているように見ちゃうのはフェアじゃない。僕は6点ですね。
横森:小西夏菜実、金村美玖、高井俐香も個性がないかな。技量も乏しい。この3人は3点かなあ。
島:高井俐香さんは明らかに経験不足に見えます。身体も硬く見える。正直、ほかのメンバーと比べる水準にない。僕は1点です。小西夏菜実さんは平均より上だと思います。ダイナミックだし、表情が端正ですね。僕は6点。金村美玖さんは調和を取ろうとする意識が強すぎるように見えます。
横森:だからぶつ切りに見えるんだよね。
島:動作ひとつ一つを見ると、よくできていますよね。全体を通してみるとチグハグに感じる。感情を切り貼りしているように見える。自分の感情をまとめあげるのに不器用なのかな。でもそれが欠点とも思えない。5点
楠木:僕は小西夏菜実は買っていて、このダンスも素晴らしいとおもいます。音楽をしっかり演じていますよ。踊りを演劇的に見せるという点では抜けていると思う。物静かなのに能弁な踊りですね。僕は7点を付けます。高井俐香は、たしかに未熟だけれど、「美」というものが全身に出ている。素質はあるんでしょう。踊りから期待を感じさせるという意味で5点。金村美玖は未熟な部分を魅力に昇華できていないんですね。そこが繊細に見えて魅力だというのもわかるのですが。でも標準的と言えば標準的だし。うーん、4点かな。
横森:島君から最低点が出たんで、俺も1点を出すなら、宮地すみれかな。すべてが独りよがりにしか見えない。この楽曲のテーマでこの動作と表情は感性があまりにも鈍すぎる。
島:編集者の性を出すと、そういう評価をくだされるものって、なかなかの価値がありますよ(笑)。そう言わせるだけの力があるってことでしょう?もちろん、そうじゃないことのほうが圧倒的に多いんだけど。
横森:それなりに考えてはいるんだろうけど、考えて作り出したんだから価値がある、意味があるって、信じていそうだよね。そういう意味じゃ「アイドル」を全力で演じてる(笑)。
島:それを隠そうとしない点をどう見るかですね。たしかに、プライドの高さが踊りに出すぎていますね(笑)。

楠木:僕が思うに、宮地すみれがやろうとしていること、実際にやっていることって、アイドルになった人間ならだれにでもできることなんだよね。その点で弱くみえちゃう。コケットリーをどこまで意識しているのかわからないけれど、渡辺美優紀を完成として見ると、遠く及ばない。僕は2点かな。
島:僕は5点で。アイデアを買います。実験的で、ただの気まぐれじゃない。
横森:情熱って点なら髙橋未来虹のほうが遥かに高い。かなり雑なんだけど、気にならない。7点
島:呼吸が感じられますよね。芯があって、心が弾んでいる。7点
楠木:この楽曲のテーマでここまで野太く踊って、それでも世界観が壊れないのは凄いですね。僕も7点かな。
横森:清水理央も迫力があるね。
楠木:この人は地力があるから。
横森:見れば見るほど魅力が出てくる。オールスタイルだね。
島:中盤から、乱れてませんか。
横森:そこが良いんだよ。出たとこ勝負じゃないよ、これ。音楽を踊ってる。楽曲と対峙しようっていう気概が踊りに出ている。9点
楠木:音楽の世界にたいしてどこに立っているのか、みたいな、そういう水準ではありますね。この場でいちばん勝負しているのも彼女だろうね。8点かな。
島:僕は6点で。全体的に粗く感じました。
横森:じゃあ次は正源司陽子。
島:このアイドルは、敬して遠ざけたいと言うか(笑)。
横森:音楽的な素養があって、個性があるよ、ちゃんと。流麗で。ただ、ちょっと意識が前のめりかな。
島:楽曲を自分なりに咀嚼しているっていうのは踊りからしっかり伝わってきます。小坂菜緒と比べてわかるのは、小坂菜緒はこの動画の場ですか、この場を作品にしていますよね。この場は踊りを見せる場だから、踊りに意識が集中している。正源司陽子さんは、どちらかというと、本番のステージと遜色ない感情を持ち込んでいる。その差が出ているのかなと思いますね。僕は8点かな。
横森:若さの逸りがよく出てるね。自分の感情ではないものを音楽から導いて表現することと、音楽から受けた自分の感情を表に出すことの区別をつけていない。でもそれは誰にでもできることではないからね。俺も8点かな。
楠木:感情の出し入れという点だけで見れば、たしかに小坂菜緒はそのへんをうまく抑制できている。小坂菜緒と正源司陽子の対比という視点では優れたものがあるが、作品として見ると、視点が狭く、裏切りがない。そういう意味では8点が妥当だと思います。
横森:抑制って点だと渡辺莉奈はやっぱり並じゃないと思うね。このダンスは、度胸があるよ。
島:小坂菜緒に似ていますよね、動作が。
楠木:小坂菜緒と比べると、野心的です。
島:挑戦的ですね。それで可憐だから、印象が強い。
横森:媚びてないよね。でも水際立つんだから、並じゃない。8点
島:僕は9点
楠木:このネージュの透明感はほかのアイドルでは出せません。透明というのは、要するに、アイドルの内側が見える、という意味ですね。世界に対して自分はどうなのか、という内面性の高い踊りではなく、自分に対して世界はどうなのか、そういう踊りですね。9点を付けます。
横森:眺めていて、なかなか評価が定まらないのが松尾桜。
島:イメージとしては藤嶌果歩さんに近いのかな。
楠木:僕はこれを見ると、かなり高く買ってしまいますね。最後まで弱気にならない点が素晴らしい。若者のでたらめな部分を統制できている。すごく冷徹に見える。地熱があるよ、この人。僕は8点
横森:統制できてるかな。我慢できていないようにも見えるけど。
楠木:感情を忍ばせる場面と、感情を爆発させる場面を、自分で選択できているんだよ。
横森:自分の得意な部分を発揮することが、結果として美しいのかという視点がまだ足りていないかな。
島:かなり強い個性を感じます。でも、まだまだまごついているように見えるので、僕は7点
横森:まごついて見えるのは、要は、荒々しいってだけだろう。じゃあ7点で。
楠木:荒々しいって意味じゃ、この動画だと大野愛実はそこまで破格ではないんだよね。
横森:ここまできでこういうことを言うのもなんだけど、ライブと比べると数段は落ちる。ライブだともっと無軌道で、音楽の終わりに答えを出すよね。ミュージックビデオでも。この動画だと、最初から答えを持っている。
島:引きの絵だと迫力を感じませんね。構成で活きるタイプなのかな。
横森:たぶん、全体のバランスを取ろうとしちゃってるね。でもこの子がすごいのは、内面のバランスは考えていないって点。そこがやっぱり大きな才能なんだろうな。まあでもこの動画一点で評価すると6点かな。
島:僕も6点くらいかなあ。
楠木:音楽への反応がおとなしい。とはいえ、要所要所で見せる表情は、ずば抜けた底力を感じさせます。7
島:最後、山下葉留花さん。
横森:欠点は特にないよ。でも印象がなぜか薄い。
楠木:自分の見せ場では目立ってるよ。ちゃんと役割を果たしてる。このアイドルは、不思議ですね。小さいものを不意に巨大に見せるような、なにかがある。
島:宮地すみれさんでしたっけ。その人よりも自覚的に見えますね。むしろ宮地すみれさんがやろうとしていることの完成形がこういう踊りになるんじゃないのかな。無駄を省いて、洗練させると、こうなるはずです。
横森:5点
島:僕は6点
楠木:6点をつけます。

よって、最終評価は以下のようになった。

10点小坂菜緒
8.6点渡辺莉奈
8点正源司陽子
7.6点:清水理央
7.3点:松尾桜
7点:髙橋未来虹
7点:藤嶌果歩
6.3点:大野愛実
5.6点:山下葉留花
5.3点:小西夏菜実
5点:松田好花
4点:金村美玖
3点:高井俐香

2.6点:宮地すみれ


2026/02/13  楠木かなえ