僕が見たかった青空 卒業まで 評判記
「卒業まで」
楽曲について、
セカンドシングル。センターには前作に引き続き八木仁愛が立つ。
ファーストに比べれば、格段に良い。と言うよりも、前作の作風を下敷きにしつつ、そのイロの濃淡をより増した今作品を眺めることで、前作品への興味が深まり、グループがやろうとしていること、という意味でのグループの全体像がはっきりと眼前に浮かび上がったように感じる。
デビューからこれまでのあいだにファンの内に抱かせた疑問、たとえば、なぜ小説のタイトルのようなグループ名を付したのか、とか、なぜ八木仁愛がセンターに選ばれたのか、とか、『青空について考える』の一枚だけでは入手できなかった答えが一つひとつ明かされたかに見える。
今作品の特徴を一言で云えば、令和に生きるアイドルが昭和歌謡に佇むという時代錯誤にかもし出されるロマン、となるだろうか。”忘れられないファーストラブ”の比喩として昭和という過去が引用されることに、たとえば現代において尾崎豊を――それは森田童子やチューリップでもなんでもかまわないが――反復することに一体どれだけの意味があるのかと思わず考えてしまうが、そうした疑問は流れ出る音楽に、理由もなく説き伏せられてしまう。
私の青春は平成の真っ只中に置いてきているから、尾崎豊や森田童子に個人的なノスタルジーを見出すことは叶わないが、しかしこの楽曲に触れると、なにがしかの郷愁がふっと湧いて出てきて、こころをつつく。それが「初恋」を歌った歌詞のせいなのか、アイドルの踊りの影響なのか、わからないが。いずれにせよ、私たちが生きる世界には、変わるものと、変わらないものがあり、どの時代においても、人のこころを揺さぶり動かすものは、その「変わらないなにか」だということなのだろう。もちろん、昭和歌謡=ノスタルジーが直接それにあたるのではない。おそらく、『卒業まで』は、その「変わらないなにか」を昭和歌謡の内に探し求め拾い上げ、この現代に引き出そうと試みているのではないだろうか。とすれば、そこには当然、乃木坂の作り上げる世界観には求めることのできない日常の幻想が立ち現れるのだろうし、乃木坂と違うことをやって、乃木坂とおなじ数だけのファンをとりこにしようと挑戦するならば、もはやこうした遡行にしか手は残されていないように思われる。
今後もこの路線をつらぬくことができるなら、かなり期待が持てる。
歌唱メンバー:安納蒼衣、伊藤ゆず、金澤亜美、工藤唯愛、塩釜菜那、杉浦英恋、西森杏弥、早﨑すずき、宮腰友里亜、八木仁愛、柳堀花怜、吉本此那
作詞:秋元康 作曲:川浦正大 編曲:野中“まさ”雄一