SKE48 内山命 評価

SKE48

 

「風の歌を聴け」

かつて誰もがクールに生きたいと考える時代があった。高校の終わりの頃、僕は心に思うことの半分しか口に出すまいと決心した。理由は忘れたがその思いつきを、何年かにわたって僕は実行した。そしてある日、僕は自分が思っていることの半分しか語ることのできない人間になっていることを発見した。それがクールさとどう関係しているのかは僕にはわからない。しかし年じゅう霜取りをしなければならない古い冷蔵庫をクールと呼び得るなら、僕だってそうだ。

(村上春樹「風の歌を聴け」)

内山命のクールな容姿とは、物事の核心を突くことができない立ち居振る舞いとは、「古い冷蔵庫」ではなく、スタジオジブリの作品世界に描かれる住民のように私は感じる。主人公に思わせぶりな挨拶を、アドバイスをおくるような住人。箒にまたがった魔法使いの少女や、呪いを解く為に旅に出る青年が呼吸をする世界の住人。少女が空から大地を見渡せば、そこに街や木々が現れ、風が吹き込み、季節の匂いと共に住民たちが生活をはじめる。その街は少女が通り過ぎ、役目を終えたら消えてしまうのだろうか。その場所で生活をする住人たち一人一人にも特別な物語があり、主人公の苦闘を描写するスクリーンのもっと奥の方で、しっかりと息をしているのではないか。その無数にちりばめた物語を辛抱強く、丁寧に探れば、きっと観る者にカタルシスを与えるような奇跡に、遭遇できるはずだ。

カタルシス
1 文学作品などの鑑賞において、そこに展開される世界への感情移入が行われることで、日常生活の中で抑圧されていた感情が解放され、快感がもたらされること。特に悲劇のもたらす効果としてアリストテレスが説いた。浄化。
2 精神分析で、無意識の層に抑圧されている心のしこりを外部に表出させることで症状を消失させる治療法。通利療法。

(出典:小学館)

「あと一歩という距離が実は一番遠い」これは批評家・福田和也の言葉である。今年開催されたサッカーワールドカップの日本対ベルギーの試合が良い例になるだろう。
内山命は2017年の総選挙で81位という結果をうける。そこにどのような感情が渦巻いたのか想像することは困難だが、凡庸なアイドルであれば、そこで心が折れてそのまま沈んでいくだろう。特にベテラン選手ならば、尚更である。届くと信じていたけれど、結局は届かなかった。あと少しで掴めていたのにそれに気が付かなかった。気付いた時には遅かった。目標とする壁の厚さを知り、その壁にもたれ掛かるようにして、くずれ落ちる。しかし、内山命は泥沼のなかに沈んでいかなかった。あるいは、一度は沈んだかもしれないが、そこから這い出てきた。実はこの順位結果を知らされた瞬間に引き起こされた情動も一種のカタルシスである。アイドルとファン双方に駆け巡った感情のことだ。だが、内山命とファンは、それとは別次元のカタルシスを一年後、体験することになる。

翌年の2018年、10回目の挑戦で内山命は10年間叩き続けてきた壁を壊すことに成功する。ブレイクスルーをみせる。一気に40位台まで付けたのはその壁が厚かった証拠だろう。壁が厚ければ厚いほど、硬ければ固いほど、そこを突き抜けたあとの制御は難しい。何せ、物凄いエネルギーを纏っているから。
為替トレードをしていると5年ぶり、10年ぶりの高値安値というシーンに遭遇するが、やはりそのラインに到達した瞬間というのは値が乱高下する。ストップ注文の壁を突き抜けると、値が吹き飛ぶ。まさに大衆心理の現れである。「この壁は厚いから越えることは不可能だ」と嘲笑う者たちの敗北宣言、敗走である。どの世界でも”トレンド”とはこうしてつくられるのだ。

 

総合評価 64点
アイドルとして活力を与える人物

(評価内訳)

ビジュアル 12点 ライブ表現 14点

演劇表現 13点 バラエティ 11点

情動感染 14点

SKE48 活動期間 2009年~
引用:見出し 村上春樹「風の歌を聴け」

評価点数の見方